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ハイレベルなPCIの標準化により日本の循環器医療をリード

大阪府大阪市・特定医療法人 渡辺医学会 桜橋渡辺病院

 大阪駅からほど近くに位置する桜橋渡辺病院は、言わずと知れた関西有数のハイボリュームセンター。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行数は2017年で932件に上り、全国15位(大阪府1位)にランクインしています。「最高水準の医療をあなたに」という理念を掲げ、急性冠症候群(ACS)をはじめとする心血管疾患への24時間365日対応を実現しているのが、同院の中枢を担う心臓・血管センターです。最新技術の開発と発信にも注力している同センターの取り組みについて、先生方とスタッフの皆さんにお聞きしました。

お話を伺った方々
岡村篤徳先生(循環器内科部長、心臓・血管センター副センター長兼冠疾患科長)
永井宏幸先生(循環器内科医長)
岡田裕介さん(放射線科技師長)
阿部顕正さん(ME科技士長補佐)
徳永里絵さん(看護部師長)
原口いづみさん(看護部手術室カテーテル室主任)

循環器内科だけでなく心臓外科も24時間365日対応

 1967年に消化器科の外来病院としてスタートした桜橋渡辺病院は、大阪万博が開催された1970年に循環器内科と心臓外科による診療を開始。以来、約50年にわたり、日本の循環器医療をリードする施設として揺るぎない地位を築いてきました。

 心臓・血管センターの「最高水準の医療をあなたに」という理念について、副センター長で冠疾患科長の岡村篤徳先生は「当センターは以前から、新しい治療手技や知見をいち早く取り入れ、実践していく気風が強いという特徴がありました。導入した技術は患者さんに提供するだけでなく、そこで得られたデータを外に向けて発信しています。この理念は、常にそうした施設であり続けたいとの願いから掲げられたのだと思います」と説明します。

 これまで、カテーテル治療において種々の新たな手技を開発、導入しており、その実績を頼りに、近畿だけでなく四国や中国地方などの医療機関からも、治療難渋例や治療困難と判断された症例が多数搬送されてきます。同センターは、そうした患者さんを24時間365日体制で受け入れています。

 同センターに所属する循環器内科医は21人で、そのうち12人がPCIを担当。夜間は当直の2人を含む3~4人により構成されたチーム(全4チーム)で、緊急のカテーテル治療に対応しています。さらに同センターは、循環器内科だけでなく、心臓外科も原則24時間365日対応を実現。「ACSで心破裂などの機械的合併症を起こして緊急手術が必要となった場合にも、心臓外科ですぐに対応できます」と、岡村先生はその意義を強調します。

 同センターのPCI施行件数は、2017年が932件。2018年も845件を数え、うち約200件がACS例でした。カテーテル室には、医師2人、診療放射線技師2人(17時以降1人)、臨床工学技士2人(17時以降1人)、看護師1人という体制で臨みます。循環器内科医長の永井宏幸先生は「各職種がスタッフごとに分担作業することでタイムロスをなくし、Door to Balloon Time(DTBT)の短縮に努めています」と話します。

ハイレベルなメディカルスタッフが迅速に連携

「最高水準の医療」を24時間365日提供するには、もちろん、メディカルスタッフの協力が不可欠です。この点について、永井先生は「当センターは、技術レベルが非常に高いメディカルスタッフがそろっています」と胸を張ります。

 例えば同センターでは、カテーテル室における血管内超音波(IVUS)検査や光干渉断層撮影装置(OCT)の操作は、夜間を含め診療放射線技師が担当しています。全16人の診療放射線技師のリーダーである放射線科技師長の岡田裕介さんは「先生は手技に集中する必要があるため、治療中は常に画像を確認できるわけではありません。そこで、技師の側からも声かけをするなど、積極的にサジェスチョンするようにしています」と話します。DTBT短縮のための取り組みとしては、「緊急搬送の連絡が入ったら片付けを早めるなど、計3台ある血管撮影装置がいつでも使用できるよう細心の注意を払っています」。

 3室あるカテーテル室のコーディネートは、臨床工学技士(ME)の担当です。同センターに所属するMEは全14人で、PCIに携わるのは12人。ME科技士長補佐の阿部顕正さんによると、「カテーテル室には交代で1室に2人ずつ入ります。1人はポリグラフの監視や手技記録など、もう1人はデバイスを清潔野に出す作業や補助循環の管理などを行っています」。

 患者さんの観察や薬剤投与は、主にカテーテル室担当の看護師が担っています。手術室・カテーテル室担当主任看護師の原口いづみさんは「カテーテル室は患者さんにとって未知の世界。不安でいっぱいだと循環動態にも影響しますから、治療中には表情をよく見て、緊張しているようなら声かけやボディタッチをするなど、患者さんの不安を少しでも和らげるよう心がけています」。救急外来担当看護師との連携も重要だと言い、「例えば、アレルギーの既往があるという情報が救急外来から得られたら、カテーテル室での薬剤投与を先生に早めに相談するなどして、リスク回避に努めています」と話します。

救急隊とのホットライン、手技の一元化で治療の迅速性と安全性を高める

 同センターでは、搬送された患者さんと最初に接する救急外来担当看護師は、外来検査部門に所属しています。外来検査部門で救急外来の看護師長を務める徳永里絵さんによると、「ACSの疑いがある患者さんが救急外来に搬送されたときは、看護師を少なくとも2人付けて役割分担し、業務の重複により余分な時間がかかることがないようにしています」。さらに、一般外来と救急外来が同一部門であるという特徴を生かし、「外来通院している患者さんがACSの疑いで搬送されてきた際には、外来通院時の情報を基に、速やかな情報共有とケアを心がけています」と付け加えました。

 一方、搬送中に心原性ショックを呈した患者さんは、救急外来を通さず、救急隊にカテーテル室まで直接搬送してもらうケースもあります。永井先生は「これは、循環器に特化した当院の強みかもしれません。当院の循環器内科医は、救急隊と直接話せるホットラインの電話を持っています。電話でカテーテル室への直接搬送が必要と判断したら、すぐにカテーテル治療の準備を開始します。心原性ショックの患者さんでは、DTBT短縮が非常に重要ですから」と話します。

 他にも、治療の迅速性と安全性を高めるために、同センターではPCI手技の一元化を図っています。その理由について、岡村先生は「基本的な手技が医師ごとに異なると、準備するメディカルスタッフが戸惑ってしまい、問題が生じるきっかけになりえます。ですから、メディカルスタッフも加わったカンファレンスで議論し、ルーチンの手技はできるだけ統一するようにしているのです」と説明します。

 岡村先生はさらに「PCIで必ず使うバルーン、ワイヤー、マイクロカテーテル、血栓吸引カテーテルの他、緊急時に使用するデバイスを1つのボックスにまとめて、術者の近くに置くようにしています」。こうした工夫によって作業動線が短縮され、安全な治療を速やかに行うことが可能になるようです。

治療難渋例への手技をライブデモンストレーションで公開

永井宏幸先生

 岡村先生によると、PCIを施行可能な施設が全国に多数分布するようになった現在、遠隔地から同センターに搬送されるACS患者さんの割合は、以前より低くなっているといいます。「最近は特に、慢性完全閉塞(CTO)例や高度石灰化病変例が多くなりました。CTOに対するPCIは年間約120件、高度石灰化病変に対する高速回転冠動脈アテレクトミーも年間約100件行っています」。これらの治療の一部は、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)やComplex Cardiovascular Therapeutics(CCT)、近畿心血管治療ジョイントライブ(KCJL)のライブデモンストレーションで公開されています。

 岡村先生らは、CTOに対する新たな治療手技を開発し、同センターで導入、実践するだけでなく、国内外に広く普及させたいと考えています。「CTOに対して順行性アプローチでPCIを施行する際、より正確なワイヤー操作を行う目的で、トランスデューサーを前後に動かせるよう改良したプルバックシステムのIVUSをメーカーと共同開発しました。これを用いることで正確な3Dワイヤー操作が可能になり、迅速かつ正確な治療に寄与すると考えられます」と岡村先生。この治療技術はCTOだけでなく、ワイヤー操作が難しいACS例にも応用できるそうです。

 さらに同センターでは、高度石灰化病変に対する高速回転冠動脈アテレクトミーの他、方向性冠動脈粥腫切除術 (DCA)にも積極的に取り組んでいます。DCAの手技について永井先生は「IVUSを使用し、3Dイメージをできる限り把握した上で施行しています。通常、左回旋枝や右冠動脈へのDCAは煩雑な手技になることが多いのですが、IVUSで3Dイメージを構築すると、安全かつ比較的簡便に行うことができます」と説明しています。

再発予防は、脂質管理を重視

 ACS治療の目的は、症状の軽減および予後の改善であり、そのためには再発予防が重要であることは言うまでもありません。この点について、岡村先生は「患者さんには退院までに、血圧、コレステロール、血糖値の管理目標や、禁煙、節酒、運動といった生活習慣について1枚の紙にまとめたものを示して説明しています」と言います。

 永井先生は「再発予防では、脂質管理が最も重要です」と話します。「ACSの患者さんには、脂質管理の重要性を説明するとともに、LDLコレステロール値を70mg/dL未満に抑えることが重要だとお話ししています」。

 その他にもフォローアップ検査として、同センターでは PCI施行後半年が経過したタイミングで、必要に応じて心臓CT検査またはカテーテル検査を実施しています。「両検査の割合は、ほぼ半々です。病変の複雑度に応じ、適した検査を選択しています」と岡村先生。永井先生は「心臓CT検査には、CT値でプラークの性状をある程度判断できるというメリットがあります。プラークの状態が悪いと判断された場合は、薬物療法や食事療法の改善といった対応を取ります。また画像で視覚的に説明することで、患者さんも納得しやすくなります」と述べ、フォローアップ検査の重要性を訴えています。

 なお同センターでは、ACSだけでなく心血管疾患で入院中の患者さんを対象とした心臓病教室を定期的に開催し、日常生活や食生活での注意点を説明しています。万が一再発した場合も、「身長、体重、血液検査や心臓超音波検査の結果といった患者さんの情報を各スタッフが電子カルテで再確認し、病棟から迅速にカテーテル室へ迎え入れる体制を取っています」(原口さん)。

「神の手」に頼らず、PCI手技の標準化を推進

 このように最新技術の開発・発信とハイレベルなチーム医療を実現している同センターからは、これまで全国の施設に数多くの医師やメディカルスタッフが羽ばたいています。同センターの教育体制について、岡田さんは「上下の風通しが良いとよく言われます。『指導者によって指導内容が異なるのは困る』という若手の訴えを受け、指導内容の統一を進めています」。徳永さんは「救急外来では、先生に指示されるだけでなく、自分から主体的に患者さんをアセスメントするよう指導しています。もちろん、患者さんへの精神的なケアも忘れないよう伝えています」。阿部さんも「これだけのハイボリュームセンターですから、新人は1日ごとに確実に知識が増えていくと思います。IVUSやOCTに直接触れていなくても、目で見て治療の戦略や進行を予測できるようになってほしいですね」と、それぞれ展望を語りました。

 最後に、岡村先生にチーム医療において大切にしていることをお聞きしました。

 岡村先生が真っ先に挙げたのは、知識の共有。「診療に関わる全職種が参加するカンファレンスの他、研究会、勉強会やライブデモンストレーションにも積極的に参加して、知識レベルを高く保てるよう心がけています」。さらに「難しい手技でも皆が施行できるよう、標準化に努めています」とも。「10~20年前は『神の手』に頼っていても構いませんでしたが、今は分かりやすく理論的に説明できなければ、インターベンション治療を目指す医師は減っていってしまうでしょう」と、手技を標準化することの重要性を強調しました。

 より良い治療を目指して活発に議論できる風通しの良いハートチームと、そうしたハートチームだからこそ可能な最新手技の標準化。それが、同センターのさらなる進歩を約束する手形かもしれません。

特定医療法人 渡辺医学会 桜橋渡辺病院
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田2丁目4番32号
TEL:06-6341-8651(代表)/FAX:06-6341-0785
URL:http://www.watanabe-hsp.or.jp/

 

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