救命救急センター・集中治療室が緊密に連携する循環器救急体制
救命救急センター・集中治療室が緊密に連携する循環器救急体制
千葉県印西市・日本医科大学千葉北総病院
日本では年間7万例に上るという急性心筋梗塞1)。その克服を目指すハートチームは日々、チーム力を高めています。日本医科大学千葉北総病院の循環器救急体制は、救命救急センターと集中治療室が緊密に連携し、初療から再灌流治療および冠動脈集中治療を行うことが大きな特徴。2001年からドクターヘリを配備し、年間200例近く急性冠症候群(ACS)患者を受け入れています。ACSに対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の現状と課題について、循環器内科准教授の高野雅充先生ら5人のスタッフに話を聞きました。
お話を伺った方々 |
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高野雅充先生(循環器内科 准教授、中央検査室室長) |
小林宣明先生(集中治療室 講師、医局長) |
松下誠人先生(循環器内科 助教) |
小澤愛子さん(薬剤部) |
渡部学さん(看護部) |
ドクターヘリを活用した高度急性期医療を展開
同院は27診療科を有し、千葉県印旛医療圏の地域中核大学病院機能を基盤に、がん診療連携拠点病院、基幹災害拠点病院などに認定されています。また、救急医療や循環器救急などの連携拠点病院として、2001年からドクターヘリを活用した高度急性期医療を展開しています。ACS患者さんの20~30%はドクターヘリ搬送例です。
ACS患者さんは、千葉県全域にとどまらず、隣接する茨城県からも多く受け入れています。カテーテル治療の成功率は100%に近く、来院から再灌流までの時間(door-to-balloon time;DTBT)は大半が60分前後です。2018年にPCIを施行した504例中、緊急PCIは180例と約3分の1を占めています。責任冠動脈病変の早期再灌流を得るとともに、再灌流障害や機械的合併症の低減、心不全対策などに積極的に取り組んでいるといいます。
「ACS患者さんの治療は、救命救急センター、放射線科、集中治療室、心臓血管外科などとの緊密な連携に支えられています。集中治療室の専従医師は循環器内科出身のため、部門間の垣根はありません。循環器内科病棟が集中治療室退出後の残存病変の治療や心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を引き継ぐ際は、その申し送りを両部門のスタッフが顔を合わせてしっかり話し合います。病院に対する患者さんの評判も良好なようですが、それには開放的な建物などのハード面に加え、何よりもスタッフが明るく、プロ意識を持ち皆で同じ方向を向いて医療を提供したいという思いを共有している、そういう病院であることが大きいと感じます」と、高野先生は笑顔で話します。
集中治療室の3機能:ICU、CCU、Surgical ICU
循環器救急の要となる救命救急センターと集中治療室の連携はどのように構築されているのでしょうか。集中治療室は12床のセミオープン形式を採用、満床時には救命救急センターの病床を借りて、ACSを含む重症循環器疾患、内科系救急疾患の患者さんの治療に当たっています。専従医師は、浅井邦也部長と循環器内科医7人。うち医局長の小林宣明先生を含む3人は集中治療専門医の資格を有し、循環器救急以外に呼吸不全や腎不全などの内科系重症疾患、心臓血管外科や救命救急センターの高リスク術後患者さんの内科的管理も担当します。つまり、集中治療室はCCU(Cardiac Care Unit)、General ICU(Intensive Care Unit)およびSurgical ICUとしての3つの役割を担っています。
小林先生は「集中治療室と救命救急センターの先生方が密に連携するには、お互いに必要とされる存在になることが重要です。われわれ循環器内科医としては、外傷などの救命救急センター収容患者の循環器評価を速やかに行い、救命救急センターの先生方のニーズに応えて専門性を“give”することで、より協力的な診療体制を築けるよう働きかけています」と説明します。
一方、救命救急センターの先生方からの“give”は、特にACSの初療時のニーズに応えるものです。循環器内科医の当直は1~2人体制ですが、Killip分類Ⅳの最重症患者さんの初期治療では4~5人のマンパワーが必要になります。急変やACS患者さんの受け入れに際しては、救命救急センターの先生方と一緒に初療に当たり、救急隊から連絡が入った時点で要請するオンコールの循環器内科医が集まる前から、再灌流治療を開始します。小林先生らがカテ室に入ると、心臓血管外科の先生方が集中治療室をバックアップする体制を取っています。
「救命救急センターとの連携は、他院と比べてかなりうまく取れているのではないでしょうか。われわれは外傷治療を積極的にサポートし、ACS患者さんの多くは、救命救急センターの先生方のサポートを受けて一緒に初療に当たっていて垣根が全くないように感じます」(小林先生)。
ドクターヘリは、救急車とのランデブー方式
ACS治療は、発症から再灌流までの時間をいかに短縮するかが最も重要です。ドクターヘリは、茨城県など遠隔地の他、ショックを伴う重症例であれば15~20 kmほど南下した八街市などにも出動します。DTBTを短縮するために、救命救急センターと集中治療室との密な連携に加えて、インフォームド・コンセント(IC)を取得するための分かりやすい資料を用意しています。
ドクターヘリは、基本的に救急車とのランデブー方式を採用。消防機関からの要請を受け、救命救急センター医師とフライトナースが乗り込んで出動します。一方、患者さんを収容した救急車は、予め設定された救急現場に最も近い臨時ヘリポート(公共の運動場や小中学校の校庭など)に向かいます。臨時ヘリポートで合流した救命救急センター医師は救急車内で診察を開始、ドクターヘリ内に患者さんを収容し離陸します。ACSが疑われる場合、連絡を受けた集中治療室の医師が、院内の手配係を務める放射線技師に一報入れ、緊急PCIに備えます。また、ドクターヘリ離陸前に、患者さんの家族にIC資料を手渡します。患者さんが搬送されている間に目を通してもらい、集中治療室から電話して治療の同意を確認することで、病院到着後速やかに再灌流治療を開始できるようにしているといいます。
OCT画像評価に基づく治療戦略構築を目指す
緊急PCIは、日本心血管インターベンション治療学会の専門医・認定医の立ち合いの下で原則施行します。高野先生らのグループでは、血管内視鏡による脂質性プラークや血栓検出に功績があった水野杏一先生の研究を継承してさらに進めており、現在、緊急PCIを施行するほぼ全例において冠動脈イメージングを用いて病態を把握し、それを基に治療戦略を構築しています。特に光干渉断層法(OCT)を高頻度に使用しており、放射線技師、臨床工学技士がそれぞれ撮影方法を工夫し、鮮明かつ良好な画像を得ることに注力しています。
OCTの空間分解能は10~15μmで血管内超音波(IVUS、150μm)の約10倍と高く、プラークや血栓の正確な組織診断が可能で、内腔に近接した部位の観察に適しています。再灌流による微小循環傷害は、梗塞巣の増大や左室機能低下に関連するため、その対策として、OCTで病態を評価し、血栓吸引療法を行っています。「最初の冠動脈造影でTIMI分類3未満の造影遅延または完全閉塞では血栓吸引を行い、可能な限りバルーンによる前拡張をせず、ダイレクトステンティングをしています」(小林先生)。
OCTを用いて血管径や血栓を詳細に評価することで、特殊な病変形態を検出することができ、それにより最適な治療が可能になるケースがあるといいます。例えば、血栓が多量にあっても、プラークが少ないことが確認できた場合、ステントを留置せずに血栓吸引のみで治療可能です。OCTによる病変評価は、無駄なステント留置を回避し、より安全かつ必要最低限の治療法選択に役立つことが期待されるといいます。ただ、現時点でその有用性は十分に確立されていません。そこで、高野先生らのグループでは、OCTで評価したACS責任冠動脈病変の形態学的特徴と重症度やバイオマーカー値、臨床転帰との関連などについて解析を進めています。
心不全チームによる早期回復への取り組み
再灌流治療の進歩により早期離床・退院が可能になってきており、同院でも、集中治療室滞在中から、医師、看護師、理学療法士からなる早期離床リハビリテーションチームによる心臓リハビリを行っています。また、急性心不全に造詣が深い医師や、慢性心不全看護認定看護師、薬剤師を中心に心不全チームを編成し、早期回復に取り組んでいます。例えば、左冠動脈主幹部の完全閉塞で補助循環装置(大動脈バルーンパンピングおよび/または経皮的人工心肺装置)が必要になった患者さんに対し、心不全チームで装置離脱の際の薬物療法について話し合って調整し、その後の心臓リハビリは理学療法士が介入して進めています。
待機的PCIはカンファレンスで治療方法を協議
緊急PCI後の患者さんは通常、血行動態が安定しクレアチンキナーゼ(CPK)値がピークアウトして2~3日後に一般病棟管理となり、残存病変の評価・治療、心臓リハビリ、冠危険因子のコントロールと二次予防教育などを行います。
「ACS急性期は責任病変のみを治療することが多く、残存病変を含む非責任病変に対し待機的PCIを施行する場合は、患者さんのリスクとベネフィットから適応を慎重に判断します」と循環器内科の松下誠人先生。具体的には、PCIを施行する前週のカンファレンスで、上級医から研修医までが一緒に話し合って治療ストラテジーを決定。重症度の判定が困難な患者さんでは、心筋血流予備比(FFR)や心筋シンチグラフィ、運動負荷心電図で機能的虚血の有無を確認しています。
退院までの心臓リハビリでは、歩行距離を徐々に伸ばし、階段昇降、シャワー・入浴などを含む7~10日間のプログラムを行います。看護師は負荷前後で心電図や血圧をチェックして評価します。「現在、心臓リハビリの担当医がいないため、早期退院して外来でのリハビリが適しているようなケースや心機能低下により心不全を合併し、通院による長期リハビリを要するようなケースに対応できていません。今後の課題として、リハビリ環境をより充実させる方向で検討しています」(松下先生)。
薬剤部の小澤愛子さんは、病棟での服薬指導を担当しています。PCI施行患者さんは、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、プロトンポンプ阻害薬、脂質異常症治療薬に加えて、心保護の観点からACE阻害薬※と低用量のβ遮断薬が処方される場合が多いといいます。「薬物療法への忍容性と副作用を確認し、主治医にフィードバックすることが重要な役割です。出血リスクを伴う抗血小板薬服用の必要性について、患者さんが疑問に思われることは多いので、長期間きちんと飲むことで短期的のみならず、長期的な再発予防が期待できることを説明します。薬剤師がサポートして長期服用を続けていけるように、退院時にお渡しするおくすり手帳には、注意点を含めて調剤薬局にメッセージを残すつもりで作成します。“転ばないように気を付ける”、“痣ができやすいが部位が広範囲にならないか”“歯磨き時に頻回に出血を認めないか”など、副作用の自己観察ができるよう指導します」(小澤さん)
患者の行動変容を後押しするタイミングを見極める
動脈硬化性疾患の二次予防は、血圧や脂質などの冠危険因子をいかにコントロールするかが鍵になります。松下先生らは、退院後の患者さんで重症の方は自身の外来でフォローし、また近医に紹介する患者さんに関しては、できる限り循環器診療に精通した医院に紹介し、場合によっては診療情報提供書に管理目標値を記載することでリスクファクターコントロールを徹底しています。また、原則として退院半年~1年後に外来で、冠動脈造影または心臓CTを施行して冠動脈のフォローを行うと同時に、冠危険因子の評価を行います。その結果、薬物療法を見直してかかりつけ医に管理を依頼したり、コントロール不良や心不全リスクが確認された場合には、当院の外来でフォローすることも検討します。
退院後に備え、看護師による患者教育は重要です。同院の看護部は“ナースコールを鳴らさない看護”を目標として掲げています。看護部の渡部学さんによると、先を読んで患者さんのニーズに対応する、積極的に声がけをすることで、より安心して治療に専念できる療養環境を整える取り組みです。この理念は、ACS患者さんのケアにも活かされています。「対話を通じて、病状や合併症への理解を深めてもらいながらリハビリを進めます。生活リズムや生活習慣は患者さんによって様々です。一緒にこれまでの生活を振り返り、患者さん自身が改善できそうなことを見つけ、自発的に生活習慣の改善を考えるようになったタイミングで、行動変容を後押しする助言をすることが重要だと思います」(渡部さん)。
渡部さんは、マラソン大会の救護ボランティアをしたとき、目の前でACSにより倒れた参加者を医師らと一緒に心肺蘇生して救急搬送した経験があります。その患者さんは同院で緊急PCIを受け、一般病棟では渡部さんが看護を担当しました。「その患者さんに、偶然居合わせて救護したことを話したところ、感謝してくれて、退院後も時々病棟に顔を見せに来てくれます。このような経験は医療者にとって大きなやりがいになります」と渡部さん。ACSから生還した患者さんの姿や感謝の言葉は、日々奮闘するハートチームの原動力となっていることでしょう。
※適応外使用
1)循環器疾患診療実態調査報告書(2018 年度実施・公表 https://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/media/jittai_chosa2017web.pdf
日本医科大学千葉北総病院
〒270-1694 千葉県印西市鎌苅1715
TEL: 0476-99-1111(代表)
URL:https://www.nms.ac.jp/hokuso-h/
EVO214160MH1(2021年6月作成)